【木材図鑑】ドロミティ産スプルース(Spruce)がピンチに・・・
以前、ヴァイオリンの原材料となる木材のうち、表板に使われる目の詰まった木材がスプルースと呼ばれる樹種の木材という説明をしました。
【木材図鑑】大航海時代が成しえたのか?ヴァイオリンに使われる木材たち
和名は唐檜(トウヒ)マツ科トウヒ属の常緑針葉樹の総称で、まぁいわゆるモミの木みたいな針葉樹です(モミ属ではないので厳密には異なる)。北半球の温帯から亜寒帯にかけて広い範囲に30種以上が分布していて、分布の北限はシベリア・アラスカ・カナダの北極圏、南限はユーラシアではビルマとヒマラヤ、北米ではメキシコ北部の高山地帯に達しています。ヴァイオリンで使用されるスプルースはオウシュウトウヒ(欧州唐檜、商用名:ヨーロピアンスプルース)が殆ど。目も真っ直ぐ,軽くて加工性がよく,乾燥による収縮も小さく狂いも少ないためにこういった工芸品に向いていて、ヴァイオリン以外にもギターのトップ材なんかに使われたりしています。
(↓だいぶナナメ上の使われ方↓)
寒い高地で育つ木のため、音質は「クリアーでヌケの良いしまった音」が特徴、かつ音に重量感があって、豊かな倍音をもたらし、タッチやニュアンスの差による音色変化が大きく出る材と言われています。それゆえに音楽表現の幅が広く出る、というのと、弾き込みによる音色の変化が大きいと言われており、これが重要なポーションを占めているかもしれません。
イタリア北部はドロミティの山岳地帯にあるヴァル・ディ・フィエンメ(イタリア語: Val di Fiemme)ににて採れるスプルースが最高級とされています。
漸く出てきましたね、地場モノ。
ところが、このイタリア北部地方は2018年10月末からの異常気象による暴風でとんでもないことになっています。
例えば水の都、ベネチアなんぞもともと年の温暖化による世界的な海水面上昇や、ベネチア周辺での地下水の汲み上げによる地盤沈下によって、相対的に陸地が海面に近づいている事もあって、そもそも秋から春にかけての満潮時には「アックア・アルタ」という高潮と吹き荒れる風によってヴェネチアの街の内部まで浸水してしまう異常潮位現象が発生し、「アックア・アルタ」が発生すると「水の都、ヴェネチア」は「水没の都、ヴェネチア」になっていますが、異常気象により輪を掛けるが如くこれがさらに酷くなります。
これは下手すると海面と地面の境界が分からず、ズドンと落ちるまで分からないという危険なパターンに。
これを防ぐためベネチアの街を守るため『モーゼ計画』というものが計画されていますが、イタリアにありがちな贈収賄、不正行為などで頓挫しています。
ちなみに同時期のマラソン大会では見たことあるランナーが爆走しています。
さすがにこれは酷いですよね。まぁ、こうなることをわかってて開催する運営側もどうかと思いますが。
そして、その異常気象が、あのスプルース名産地を直撃してしまった画像がこちら。
Trees covering the mountainsides in the Dolomites range were reduced to matchsticks, flattened by winds that tore through the Veneto region on Thursday.
“It’s like after an earthquake,” Veneto governor Luca Zaia said. “Thousands of hectares of forest were razed to the ground, as if by a giant electric saw.”
In addition, 160,000 people in the region were left without electricity, Zaia said, adding that parts of the Dolomites were “reduced to looking like the surface of the moon”.『ドロミティ山脈の山腹を覆う木は木曜日にヴェネト地域を引き裂く風によって根こそぎ倒された。「まるで地震の痕ようなものだ」とヴェネト州知事のルカ・ザイア(Luca Zaia)氏は語った。「何千ヘクタールもの森林が、まるで巨大な電動ノコギリで切り倒されたように転がっている。」
さらに、同地域の16万人の人々が停電被害に遭っている、とザイアは発言しており、ドロミティの一部は「まるで月面のよう」と付け加えた。』
この大雨により、同地区の森林協会であるColdirettiは声明を発表し、約1400万本の木が倒されたと発表しています。またこれにより復帰するのに1世紀は掛かるとも述べています。また、ヴェネト州知事のルカ・ザイア氏は、この地域の暴風による被害は少なくとも10億ユーロ(11億ドル)に達すると説明しています。
また、この地域のトウヒの木は「ヴァイオリンの森」とも呼ばれ、1丁数億円で取引される名器ストラディバリウスにも使われています。地元の林業技術の専門家は、上述の見立てよりも酷いと見ており元の森に戻るには「200年かかる」と指摘しています。
伊紙レプブリカによると、森がうみ出す良質な木材は、弦楽器やピアノの響板に広く使われてきたこともあり、北部クレモナで17~18世紀に弦楽器製作を手がけたストラディバリ父子も、この森の木材を使ったとされています。然しながら、風速30メートル以上の暴風が吹き荒れた結果、150万立方メートルの木が幅約200メートルにわたってなぎ倒され、壊滅的状態に陥った、としています。
なんとも、天災からの復旧って想定外であるがゆえに、人的損失などあらゆるものがダメージを突然追ってしまうものゆえ、復旧ってそんな簡単ではありません。
あちらが立てば、こちらが立たない、そんな綱引きの中で、少しずつジワジワと元通りに向かっていくような、そんな時間軸でしかない中で、何とも痛ましい状況です。
元はといえば、2008年4月18日のニュースではありますが、スウェーデンのウーメオ大学(Umeaa University)は17日、同国で樹齢1万年近い、現存する世界最古のトウヒを発見したと発表しているくらい長寿の木材なんですよね。
同大自然地理学の研究チームによると、このトウヒは2004年、同国の研究チームがダーラルナ(Dalarna)地域で樹種の個体数調査を行っていた際、Fulu山で発見された、としています。この木は、9550年前の遺伝物質を持っており、つまり、およそ紀元前7542年に根付いたことになります。
それだけに、とにかくじっくり見守るしかない、という状況なのですね。
と言うことで、また次回。