デンオン・クラシック・ベスト More50
コーガン&マゼール/メンデルスゾーン、ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲
【収録情報】
・メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調 op.64
・ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調 op.26
レオニード・コーガン(ヴァイオリン)
ベルリン放送交響楽団(現ベルリン・ドイツ交響楽団)
ロリン・マゼール(指揮)
録音時期:1974年11月13-15日
録音場所:ベルリン、グリューネヴァルト教会
録音方式:ステレオ(セッション)
「レコード芸術」推薦
レオニード・ボリソヴィチ・コーガン(Leonid Borisovich Kogan、1924年11月24日 – 1982年11月17日)は ウクライナ出身のソ連の名ヴァイオリニスト。同郷の親友ダヴィッド・オイストラフに同じくユダヤ系の系譜に連なる。
これは1974年11月に彼の50歳を記念してベルリンで録音したもの。その超絶技巧を駆使した起伏の激しい演奏と、演奏中の厳しい表情から「魔人と契約した天才」「ヴァイオリンの鬼神」の異名をとったコーガン。そして1960年代から1970年代の前半にかけて、切れ味鋭い先鋭的な解釈を示すことが多く、「鬼才」の名をほしいままにしていた指揮者のロリン・マゼール(1930~2014)との共演による録音であり、高品質の録音にあまり恵まれなかったコーガンにおいて当時のステレオ録音においては見事な録音環境であり貴重な一枚となっている。
今回の録音ではドイツ・ロマン派のヴァイオリン協奏曲の王道、メンデルスゾーンとブルッフという名曲中の名曲を取り上げていて話題になった模様。
コーガンはメンデルスゾーンはシルヴェストリ指揮パリ音楽院管弦楽団との1959年録音(旧EMI)以来の再録音、ブルッフは意外にもコーガン唯一のスタジオ録音となったもの(2曲ともライヴ録音はあります)。コーガンのヴァイオリンは、録音会場のベルリン、グリューネヴァルト教会の美しい響きを活かした歌いっぷりとなっている。
とは言え、同じ録音会場か?と言えるほどヴァイオリンの鳴らし方がメンデルスゾーンとブルッフでは異なっているのが非常に興味深い。
メンデルスゾーンではひたすら端正に、ロマンティックに酔わず、出来るだけアタック音、軋みやノイズに近いざらついた音質を出来るだけ排除した透明感を前面に打ち出したような演奏となっている。冒頭の歌い回しからして時間いっぱいに取りながらも、決して嫌味にならない微妙なコントロールをやってのけているのがスゴイ。基本的にはオケの演奏を従えて、というよりはオケの上で軽やかに舞うようなイメージであり、決してこれが鬼神と鬼才の競演とは名前を出さない限り分からないであろうと思われる出来となっている。
これに対するブルッフは、おそらくブルッフのコンチェルトの中でも猛烈に名演と言える出来。第1楽章ではまさに剛腕と言うしかない力強い音色でオケを従えつつ、第2楽章では打って変わって見事な歌いっぷり(マゼールのオケがこれまたいい味を出していて見事と言うしかない)、第3楽章では持ち得るテクニックを尽くした熱演となっている。
ライブではなく単純にCDで聴いているだけなのに「すげぇ」と感動できる1枚となっていて、コーガン入門としても最適と思う。
もちろん深みにハマればモノラル録音でのコーガン絶頂期の演奏は楽しめるが、そこまで行くともう戻ってこれない世界になってしまうので、この辺りで止めておきましょうかね。
コーガンは音楽家としては58歳と若くして亡くなりますので、そういった意味でも晩年の円熟味と若干のセンチメンタルを感じながら聴くとなお一層感動的かもしれない。
それでは、また次回。