「サードポジション」という異次元へ旅立つ学生の発射台となるヴィヴァルディのコンチェルトであります。アウフタクトの入り方、そのあとのA音連打、学び始めたばかりの学生にはどう考えても酷な、素質や技術、センスがもろにばれる構成、意外と何にも考えずに鳴らすことを考えた方が後世に繋がるような気もします。それだけ、裸一貫で勝負することを求められる曲でもあるのです(勉強しているときは余り気付かない人が殆どですが)。
『ヴィヴァルディ ヴァイオリン協奏曲 ト長調
Violin Concerto in A minor, RV 356 (Vivaldi, Antonio)
1711 in L’estro armonico, Op.6』
日本語でいうと「調和の霊感」。
【新しいヴァイオリン教本】第5巻 ~ ヴィヴァルディ ト長調~
こちらでも出てくる、いわば超有名な合奏協奏曲集と言えましょう。
1711年にアムステルダムで出版されたこの12曲から成る協奏曲集は、ヴィヴァルディがイタリア外で出版した初めての合奏曲集であり、かつ18世紀において最も影響力のある協奏曲集ではないか、と言われています。
今回レファレンス用では、ヴァイオリンを学ぶにあたって必須となる美しい音で豊かに楽器を鳴らすこと、を前提としているので、取り上げるのはモダン楽器・奏法による演奏になります(というよりピリオド奏法良く分かりませんw)。
① イ・ムジチ合奏団(コンサートマスター:ロベルト・ミケルッチ/Roberto Michelucci)
1963年録音。初代コンサートマスターのフェリックス・アーヨのあとを継ぎ、2代目にしてイ・ムジチのイメージを盤石なものとしたミケルッチの演奏から。
演奏スピードは決して快速過ぎず、かといって遅くもない、ぎりぎりのバランスを保っているコントロールされた「快活」という表現がぴったり。勢いに任せていないところがこの演奏の良いところ。
② イ・ムジチ合奏団(コンサートマスター:ピーナ・カルミレッリ/Pina (Giuseppina) Carmirelli)
イ・ムジチ合奏団初のコンサートミストレスであり1973年から1986年まで13年間勤め上げており、アナログ録音からデジタル録音へ移行していったさなかの録音技術のワナにはまった世代とも言えます。
即ち、アナログ論争、デジタル論争とよく言われていた、録音を聴いて感じる冷たい印象をデジタルに感じてしまう事から、果たしてこれが素材として演奏が持つ冷たさなのか、録音技術によるものなのかが見えない、というつらい世代の録音を受け持っています。
従って、今までの演奏に感じる豊潤で丸みのある、それでいて明るい音色、というよりはクリアなトーン、と言える演奏です。まぁ、とは言えステキな演奏には変わりがありませんが。
③ イタリア合奏団(I Solisti Italiani)
レコード・アカデミー賞を録音部門で受賞した美しい演奏です。
イ・ムジチ合奏団と違って、何となく人間らしさを感じる、というかハートの高ぶりが演奏に現れるような、そんなところがステキだな、と思う今日この頃です。
④ アカデミー室内管弦楽団(The Academy of St Martin in the Fields)/ Sir Neville Marriner
イタリア系合奏団とは異なるアプローチでヴィヴァルディに迫る良質の録音。
イギリスの名門アカデミー・セント・マーティン・イン・ザ・フィールス/ The Academy of St Martin in the Fields(=アカデミー室内管弦楽団)を、かつての著名な音楽学者サーストン・ダートの弟子で、古楽の巨匠ネヴィル・マリナーの指揮で楽しめる、というもの。コンサートマスターは当時いた2名、アラン・ラブデイ(Alan Loveday)、アイオナ・ブラウン(Iona Brown)がソロを弾き分けていたようです。RV.356はアラン・ラブデイのソロと思われます。
バロックによくあるフレージングを即興でアレンジ加えていくような手法が採られています。
ってな感じでまた次回。
[…] 【新しいヴァイオリン教本】第3巻 ~ ヴィヴァルディのコンチェルト イ短… […]