メンデルスゾーンは早熟の天才たちの中でもぶっちぎりクラスの天才と言われていますが、その彼が習作として『弦楽のための交響曲』もしくは『弦楽のためのシンフォニア(原題:”Sinfonia”)』を12歳から14歳にかけて作曲(これらはメンデルスゾーン家で毎週開催されていた日曜音楽会において演奏するために作曲されたそうですが)、計13曲を仕上げたのちに、1825年にサイズを少し落として、弦楽八重奏(ヴァイオリンx4、ヴィオラx2、チェロx2)として、これもまた習作として書いたそうな。
ところがどっこい、のっけから始まる名作の予感しかない和声の進行とヴァイオリンのソリスティックな動き、これが猛烈な完成度の高さをもって、現代においてもなお弦楽合奏団の重要なレパートリーとして名を馳せている訳ですね。
スコアはこんな感じ。
終始、ファーストヴァイオリンを支えるセカンド以下のヴァイオリン、という主従のハッキリした役割分担が続くあたりは古典派というか古き良き時代を範とした作曲手法なのかもしれません。と言いながらも各パートが絡み合う発展形も持ち合わせており習作と言いながらワンパターンに陥らないのはさすが。
だいたい16歳の秋、って言ったら部活と勉強でヒイコラ言っている学生のイメージしかない訳ですが、フェリックス君の16歳はどんな日々を送っていたのでしょうか。
文豪ゲーデはフェリックス君の師匠、ツェルターとの会話の中でこんなやり取りをしたそうな(やり取りがなされたのはフェリックス君が12歳の時期と言われる)。
「音楽の神童(中略)は、もはやそれほど珍しいものではないだろう。しかし、この少年が即興でしていること、初見でする演奏は奇跡という次元を超えている。私はあれほど幼くしてこれだけのことが可能だとは思ったことがなかった。」「あなたはモーツァルトが7歳の時フランクフルトで演奏するのを聴いたのでしょう?」とツェルターが問う。ゲーテは「そうだ。」と答えてこう続けた。「(略)しかし君の生徒が既にやっていることを当時のモーツァルトに聴かせるのだとしたら、それは大人の教養ある話を幼児言葉の子どもに聞かせるようなものだよ。」
ぶっちぎっていたんですね。
昨日取り上げた異次元ヴィオリスト、Antoine Tamestit(アントワーヌ・タメスティ)が参加している八重奏。この演奏もとても素敵。
というところで、また次回。