【新しいヴァイオリン教本】第5巻 ~ ジプシー・ダンス(Gipsy Dance)~

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GIPSY DANCE from “The Most Popular Violin Solos” edited by Albert Ernest Wier
(A.E.Wier編『The Most Popular Violin Solos』よりジプシー・ダンス/Gipsy Dance)
New York/Hinds, Noble & Eldredge社発行(1907年)

『ウィアーって誰やねん』

アルバート・アーネスト・ウィアー/Albert Ernest Wierはアメリカの音楽編集者(1879年~1945年)。1900年前後はヴァイオリニストとしてソロやオーケストラでのコンサートマスターなどを歴任、1900年代後半からは楽譜やスコア出版の際の編集者に軸足を置いて活躍した人物です。
彼は1900年に入ってから幾つかの小品を作曲したりしてきたのですが、1907年に、様々な小品と幾つかの自作曲を編纂して出版したのが『The Most Popular Violin Solos』。この中でウィアー自身が幾つか作曲したなかに、この“Gipsy Dance”が含まれています。

『The Most Popular Violin Solos』
1907年のこの曲集は17曲から成るヴァイオリンの小品集です。

1. Godard: Mazurka No.2, Op.54
2. Massenet: Élégie
3. Elgar: Salut d’amour, Op.12
4. Wier: Gipsy dance
5. Thomé: Andante religioso, Op.70
6. Saint-Saëns: My Heart at Thy Sweet Voice from Samson et Dalila
7. Durand: Chaconne, Op.62
8. Jaggi: Ballade romantique
9. Liszt: Liebestraum, S.541
10. Poldini: Poupee valsante
11. Jensen: Murmuring zephyr
12. Grieg: An den frühling
13. Chopin: Grande valse brillante, Op.18
14. Ilyinsky: Berceuse (No.7) from Noure et Anitra, Op.13
15. Wier: Melancolie
16. Bohm: Perpetuum mobile ‘The Rain’ (No.4) from 6 Miniaturen, Op.187
17. Bohm: La fontaine, Op.221

「新しいヴァイオリン教本」もここから採譜したものが幾つかあるんだろうな、と伺える内容で「Thomé: Andante religioso, Op.70」が入っていますw。
編集の主目的はアメリカで増えていくであろう中流家庭用に、ヴァイオリンを習う子供用に「名曲集」として浸透させるのが目的であった模様。

成功したのかどうかわかりませんが、その彼はどんどん似たようなコンセプトの本を出し続けていったことから考えるに、きっとヒットしたんでしょうな。

 

『ジプシーって何やねん』

ジプシーという名称は、英語のエジプト人(エジプシャン/Egyptian)が由来だと言われています。このEgyptianの頭の音が抜けて「ジプシー」 (Gypsy) と呼ばれるようになった、ワケですね。
一般にはヨーロッパで生活している移動型民族を指す民族名であり、転じて、様々な地域や団体を渡り歩く者を比喩する言葉にもなってしまっているので、差別用語、放送禁止用語と見做されて、ジプシー民族を彼らの自称「ロマ/Roma」と呼ばれる傾向があります。
ところがこれも完ぺきではなくて、ジプシーにはロマのほかにロミやらなんやら幾つかのカテゴリーにの中で最大勢力、ってだけなんですね。

ヨーロッパやペルシャの古い文献、あるいは言語学的推察によれば、現在ジプシーと呼ばれる人々は、インド北西部発祥のロマニ系の人々だと考えられています。移動型民族ゆえに定住地を持たない文化であり、10世紀頃に、そうした人々の一部が西進し、トルコ、エジプト、中東からバルカン半島を抜けて、ヨーロッパ、果ては北アフリカまで移動、何世紀にもわたり差別等により苦難の歴史を歩み続けたといわれ、長きにわたり大道芸、冶金、占い、そして音楽などを生業にして、行く先々の文化を取り入れ発展してきた結果、ジプシー音楽というものが形成された、といわれています。

各国に定着している呼び名だけでも、フランスでは「ジタン」、「マヌーシュ」、スペインでは「ヒターノ」、イタリアでは「ツィガーヌ」、ドイツでは「シンティ」、「ツィゴイナー」など多彩。これらを見るだけでも、「あ、この曲はジプシー音楽がベースなんだな」なーんて分かるようになります。

そんな中でも本場ルーマニアは、ロマの人々が人口の10パーセントほどを占めているともいわれ、クラシックでいうなら、ルーマニアが誇るバイオリニストのジョルジェ・エネスク(George Enescu, 1881~1955)の作品には、ジプシー音楽の影響が色濃く出ていると言われています。お隣のハンガリーでいうなら鍵盤の魔術師、フランツ・リスト(Franz Liszt, 1811年‐1886年)のハンガリー狂詩曲などにその影響が伺えます。
まぁ、なんだかんだ言っても我々程度の理解であれば「ジプシー音楽」ってこういうイメージ。

Roby Lakatos ~ Czardas(チャルダーシュ)
これ、ヴィットーリオ・モンティ(Vittorio Monti, 1868年‐1922年)でイタリアの作曲家がつくったもの。その後数多くのジプシー楽団でレパートリーに取りあげられるようになり、ジプシー音楽の代名詞みたいになってます。

正しい定義は難しいみたいですが、テンポの激しい変化、旋律の装飾、細かいリズムなどを特徴とするロマ民族特有の音楽、とされています。まぁ哀愁漂うメロディ、劇的な展開などどれをとっても佇まいを正していなければならないクラシック音楽からすれば劇薬みたいなもので、数々の作曲家が影響を受けていると言っても過言ではないワケですね。
でもこの表現の幅が凄すぎて、譜面には書き表せない、というのが問題(どんだけやw)。それだけでなく、微妙なニュアンスの違いによる演奏技法や、テンポやリズムの振り幅が、現在の伝統的クラシック音楽の表現方法には、大味なのですね。かといって細かく書いていったらマーラーの譜面もびっくりの文字だらけ譜面になること間違いなし。

という観点から言えば、Roby LakatosのCzardas(チャルダーシュ)は万人ウケするようなモデレートな味付けでヒットしたのかなぁ、なんて思う今日この頃です。

 

『ということでいい音源がない』

言いたかったのはコレw。


ということでまた次回。

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