トッカータとフーガ ニ短調
J. S. Bach『Toccata and Fugue in D minor, BWV 565』
『トッカータとフーガ ニ短調 BWV565』は、J. S. バッハが21歳頃に作曲した(とされる)名曲中の名曲でありオルガン曲のなかでも特に人気の高い作品のひとつ。短調の変終止で終わるオルガン・フーガはバッハの全生涯を通じて他に例がないことや、自筆譜がないことから偽作説なども存在する。
『チロリ~ン♪ハナから牛乳~♪』と朗々と歌い上げたのは嘉門達夫だが、またそれ以外にも数多くの替え歌、派生が存在する。元々はヴァイオリン用の曲として作曲されたとする説が強いゆえ、色々寄り道しながらも探ってみようと思い立ったのであった。
①オルガン版~これぞオリジナルの美学~
https://youtu.be/Zd_oIFy1mxM
バッハ演奏の第一人者であるカール・リヒター(Karl Richter, 1926年10月15日 – 1981年2月15日)の演奏。演奏がどうこうという次元を超えて、オルガンの音色とこの曲の壮大さ、重厚さがマッチして・・・なんて表現が陳腐に聞こえるくらい、荘厳な世界がそこに広がっている。まじまじと聴いてみるとなんと美しい演奏なのでしょう。
②オルガン&ドラム版~リズム楽器がメロディーを奏でるとき~
https://youtu.be/yCnVJNxKR9s
と、ココになぜか打楽器としてドラムを加えるとこうなるw。
リヒターの演奏には音色を変えるためのストップを変えるために補助を置いていたが、ココではなんと「ど・・・ドラすか・・・」。スイスの名ドラマーOrlando Ribarとのコラボレーション。というかドラマーOrlando Ribarがオルガンとコラボした、という言い方が正しい。
③ハープ版~世界でも古い起源をもつ楽器の響きとは~
https://youtu.be/oPmKRtWta4E
イギリスのハープ奏者、Amy Turkの演奏にて。
オルガンは両手両足をフル活用して音楽を奏でるように、ハープもまた両手両足をフル活用しての音楽となる。
④クラシックギター版~小さなオーケストラのドュエル~
https://youtu.be/ZQeVYnPAoPw
ハープを聴いた後であれば違和感なく聴くことが出来るクラシックギター版。ブラジルのクラシックギタリストEdson LopesとGuilherme Sparrapanの二重奏。スパニッシュギターの要素も感じられながらもクラシックギターの範疇から飛び出ていないアレンジがステキである。
⑤エレキギター版~現代のヴィルトゥオーゾたちの競演~
https://youtu.be/wqgQ7IYhvRg
ここは敢えてギターソロではなく、エレキギターを使いながらオルガン版を完全再現に挑むスペインのエレキギターオーケストラ“Sinfonity”からの紹介。
この“Sinfonity”はスペイン人ギタリストのPablo Salinasを中心に2012年ごろからスタートしたグループであり、オルガン版の和声進行、響き、そういったものを見事に持ち込んでいると言える。風体は完全にロッカー、というか奏法はネオクラシカル路線も若干入った奏法ゆえ、終盤にはついつい立ち上がっちゃったり、速弾きしちゃったり、というオマケはあるものの、クオリティは高い演奏を繰り広げている。
⑥アコーディオン(バヤン)版~圧倒的な迫力と響きで迫るバヤンの美学~
https://youtu.be/eDFFUIGoBUc
全編を通して目を引く演奏と言えば実はこれかもしれない。
言ってみればアコーディオンもオルガンと同じように空気を送り込んで一枚のリードを震わせて音楽を奏でる楽器であるからこそ、似たような雰囲気を感じるのかもしれない。
この映像ではロシア式アコーディオン(バヤン)による演奏。もはや鍵盤楽器とも言えないが、アコーディオンがクロマティック式の音階しか演奏出来なかったものを改良して出来たという優れモノ。
ここではロシアSergei Teleshevの演奏を。
the Academy of Music in Voronezh卒業にてthe National V-Accordion Competitionのチャンピオンでもあるバヤンの名手による妙技をお楽しみあれ。
マジですごい。
⑦グラスハープ版~指先ひとつでダウンさ~
https://youtu.be/XKRj-T4l-e8
ちょっと変わり種としてグラスハープを。
イギリス系イタリア人のRobert Tisoの演奏によるトッカータとフーガ。
録音レベルにもよるのでしょうが、ここまではっきりと音が鳴るとは思いもよらなんだ、というところかしら。
ワイングラスのふちを触れるだけで音が鳴る、という仕組みだけれども動画をよーくみていると、ブレスを取るが如く指を水で湿らして適度な摩擦を確保してから触れているところがこのグラスハープのミソなのかもしれない。
⑧ヴァイオリン版~これぞ原典版「無伴奏ヴァイオリンの為のトッカータトフーガ」であったのか~
https://youtu.be/lSFDCzzYWs0
そしてようやく辿り着いたヴァイオリン版。ここはロシアの中堅ヴァイオリニストSergey Alexandrovich Krylovの演奏にて。ストラディバリウス国際コンクール、フリッツ・クライスラー国際コンクールの優勝者だけあって熱い見事な演奏を繰り広げている。
が、おそらくアンコールピースとして演奏されたと思われるが、後ろのオケはアンコールが長いゆえに飽きちゃっているという残念な映像も一緒にお届けしちゃっているトコは見ないでおきましょう。
無伴奏ヴァイオリンのピースとして考えるのであれば、これもまた美しい作品でありながらドラマ性もあって、まるでシャコンヌのような一大絵巻となって楽しませてくれることでしょう。
しかしアレね、演奏が終わった後のオケの顔ったらありゃしないw。
⑨弦楽版~アンサンブルの妙~
https://youtu.be/qf_bS2DKIDo
最近流行りのネマニャ・ラドゥロヴィチ(Nemanja Radulović)の演奏にて。
1985年セルビア(旧ユーゴスラヴィア)生まれ。P.フォンタナローザに師事、さらにメニューイン、アッカルドの指導を受けて、1995年ストレサ国際コンクール(イタリア)、96年コチアン・ヴァイオリン・コンクール(チェコ)、97年バリス・ドヴァリョーナス・コンクール(リトアニア)、2001年エネスコ国際コンクール(ルーマニア)、2003年ハノーファー国際コンクール(ドイツ)の5つのコンクールで第一位を獲得。
という腕前の持ち主なんだけれども、クラシックのオリジナル主義というか原典主義に拘らずクロスオーバーを厭わない傾向が、さてどう映るか?というところかしら。
⑩オーケストラ版~我々を別次元に連れて行ってくれる魔術師とチェコフィルの競演~
https://youtu.be/idNJaLp6n0U
そして最後はやはり「音の魔術師」レオポルド・ストコフスキーの指揮によるオーケストラ版で。しかも今回取り上げるのはいつものフィラデルフィア管弦楽団ではなく、名手揃いのチェコフィルハーモニーとの組み合わせ。ストコフスキー90歳の時の演奏というから驚き。
と言いながら1976年、94歳の時にはCBSコロンビアと6年契約(契約満了時に100歳を迎える計算となる)を結んだが、1977年に自宅で心臓発作により95歳で没した。直後にラフマニノフの交響曲第2番をレコーディングする予定であり、数年後にはベートーヴェンの「田園」をデジタルレコーディングする予定もあり、本人は100歳まで現役を続けるつもりで契約をしていたという怪物である。
オルガンの名曲をここまでドラマティックにオーケストラの響きとドラマ性を内包させた編曲とするなんてステキすぎる。正直初めて聞いたときは余りの衝撃に人生で数少ない感動を覚えた。
そのあとオーケストラのフルスコアをその当時にしては大枚をはたいて、何度も選曲会議に出しては落選、完全にお蔵入りになっているが(ものすごい難曲だしw)、いつかはやりたいな、と思っている曲のひとつである。
ってなところでまた次回。
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[…] ちなみに、前回はBayanのバッハを取り上げてみた。 『クラシックの名曲「トッカータとフーガ」~鼻から牛乳以外10選~』 […]
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